2009年06月16日

川端康成「雪国」

営業に連れられてゲートを抜けると修羅場であった。プログラマの前途が暗くなった。入り口のそばで足が止まった。

向かい側の座席からSEが立って来て、部長席の前の受話器を取った。顧客の怒声が流れ込んだ。SEは手をいっぱいに広げて、遠くへ叫ぶように、
「仕様なんです、仕様なんです」

IDカードをさげてゆっくり入館して来た男はiPodで耳の穴をふさぎ、目に大きなクマを作っていた。

もうそんな状況かとプログラマは開発現場を眺めると、人が寝ていたらしい毛布が床に寒々と散らばっているだけで、彼の心はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。

「お客さん、仕様です。議事録にもそうあります」
「ああ、話にならんじゃないか。部長はいるかい。また作り直しだよ」