2013年10月05日

【読書感想】星を継ぐもの(ジェイムズ・P・ホーガン)

SFは好きですか? 私は好きです。

というわけで今週読んだのは、星を継ぐもの。1977年に発表された作品だけど、今読んでも十分にSFしている。

事務作業の描写とかはさすがに古さを感じるし、作品中に登場する生物学的な不明点のいくつかは現代では解消されてはいるけど、それでも主題の宇宙に関する箇所はこれでもかというほどSFしてる。



あらすじ

月面で人間の遺体が発見された。その遺体は月基地に所属している誰のものでもなく、年代測定の結果、5万年前に死亡していることがわかった。

この遺体はいったい何者なのか。どうやって5万年前に人間が月へたどり着いたというのか。たくさんの科学者たちが長期間の調査を重ね、いくつかの謎が解き明かされ、その過程でまたいくつかの謎が生まれていく。



感想

本作は月面で発見された謎の遺体とそれにまつわる調査結果が明らかになる過程を、ハァハァと息を荒げ、興奮と劣情に身悶えしながら読む本である。

この本を読んで、私はSF的な謎を前にすると何か異様に興奮する性癖が自分にあることが分かった。この感覚は仕事で正体不明のバグを前にした時の興奮によく似ている。

個人的に推理小説はそれほど好きではない。殺人事件に関する謎とかを提示されても、あまり解きたいという熱意が生まれてこない。しかし本作のようなSF的な謎を提示されると、解きたくて解きたくて仕方なくなってしまう。ヴォイニッチ手稿を目の前にすると誰だってウズウズするようなものだ。アシモフの「ロボット三原則があるのになぜ殺人を?」みたいな話に惹かれてしまう感覚にも似ている。

本作は探偵小説にありがちな読者を騙すような情報の提示の仕方はせずに、淡々と整然と判明した事実を連ねていく。そこでは人間ドラマはほとんど描かれず、研究の進み方に最も強くフォーカスしながら話は進んでいく。一般的な小説よりもプロジェクトXに近いかもしれない。推理したい欲求はそれでも(いや、それでこそ)十分に刺激される。

前半の情報が足りない段階では、想像していた展開と反する新情報が出てきたりして「あれ、これはどういうことなんだ」「辻褄が合わない。この情報はどう考えればいいんだ」と悩んだりもするが、ある程度情報が出揃ってくると「きっとこういうことが起きたのだろう。そうするとあの情報はこう説明ができる!」と思い描き、謎が生まれるたびに推論を構築しながら読むのが楽しくなる。

本作はシリーズ化された作品の一作目で、続きが数作出ている。2作目はどうするかな。まだ解き明かされていないこともあるので、いつか読みたいとは思う。同じ作家の本は続けて読まない主義なので(視野を広げるのが読書の目的の1つなんで)、気が向いた時にいつか読めればと思う。



蛇足1

人間には真実を理解する能力はない。真実を前にしてもそれが真実であることを直感的に知ることはできない。ただ矛盾を感知する能力は優れている。

そこで便宜的に「矛盾がない=真実である」かのように振舞っているが、新しい事実が発見されるとたちどころに矛盾が生じ、真実だったものは虚偽に変わる。真実を知ることができないのは、プログラムにバグがないことをプログラマが証明できないようなものだ。

なので私は「それが真実である」とすることに対して酷く臆病であるし、現実に真実であるとされていることの大半は信じていない。「正しい」ではなく「現状のおいて最も確からしい」というステータスで捉えている。主人公の考えはそうした私の考えと親和性が高く、感情移入もしやすかった。



蛇足2

人間の意思は伝播しやすいものだ。SF作品がなんらかの機会でブームになれば、それは人間の宇宙への干渉に貢献することになるだろう。

とあるサッカー漫画やバスケ漫画が、日本のスポーツの人気を大きく変動させたように、なんらかの作品が宇宙への熱を大きく盛り上げ、そしてそれに投資する多くの人間を生み出すという現象は発生しうる。日本がロボットの開発に熱心な理由もそこに一因がある。

宇宙開発の促進は、スター・トレックやスターウォーズのような作品が、今後どれだけ現れるかにかかっている部分もあるかもしれない。